世界を動かす「人材ビジネスの巨人」たち。2025-2026年最新グローバルランキング





世界を動かす「人材ビジネスの巨人」たち。2025-2026年最新グローバルランキング

世界中で「働く」という行為がデジタル化し、流動性を増す中で、その背後で数兆円規模の資金と数百万人のキャリアを動かしている巨大企業があります。コンサルティング業界やIT業界に身を置いていると、これら人材サービスのメガプレイヤーたちは、単なる「紹介会社」以上の存在として無視できない規模になっています。

今回は、2025年の最新決算データと2026年の市場予測を基に、世界の人材派遣・サービス業界のトッププレイヤーを詳しく掘り下げてみます。数字の規模だけでなく、彼らが今どこに投資し、どのように「データ」を武器にしようとしているのか。その戦略に注目すると、これからの労働市場の形が見えてきます。

2025-2026年 グローバル人材サービス売上高ランキング

まずは全体像を把握するために、主要なメガプレイヤーたちの立ち位置を確認しておきます。為替の影響もありますが、上位陣の顔ぶれは非常に強固です。

順位企業名本社所在地主な強み・特徴
1Randstad(ランスタッド)オランダ世界最大規模。製造・事務からITまで網羅。
2Adecco Group(アデコ)スイス60カ国以上の展開力。リスキリング支援に注力。
3ManpowerGroup(マンパワー)アメリカ専門職ブランド「Experis」を通じた技術者派遣。
4リクルートホールディングス日本Indeed、Glassdoorを擁する世界最強のHR Tech。
5Allegis Group(アレギス)アメリカ非上場では世界最大。IT・エンジニアリングに特化。

各社の戦略:単なる「派遣」から「Tech & Data」への転換

1. Randstad:規模の経済とローカライズの融合

売上高で世界首位を走るランスタッドは、もはや伝統的な派遣会社ではありません。彼らが近年掲げている「Partner for Talent」という戦略は、AIによるマッチング精度の向上と、人間によるコンサルティングを融合させるものです。2025年の決算では、欧州市場の停滞を北米やAPACでのデジタル人材派遣で補う構造が鮮明になりました。

特筆すべきは、彼らのIT投資の規模です。バックオフィス業務の徹底した自動化により、営業担当者がより「人間らしい」キャリア相談に時間を割ける環境を構築しています。これはまさに、前回の記事で触れたECRSによる業務の削ぎ落としをグローバル規模で体現している例と言えます。

2. Adecco Group:労働力の「再教育」をビジネスにする

アデコは、傘下の「LHH(リー・ヘクト・ハリソン)」を通じて、再就職支援やタレント開発といった、派遣の前後にあるプロセスを強力に押さえています。デジタル化によって消える仕事と、新しく生まれる仕事の間にある「スキルギャップ」を埋める教育ビジネスを、派遣とセットで提供しているのが強みです。

彼らが現在注力しているのは、「データに基づいたスキルマッピング」です。BIツールを駆使し、どの地域でどのスキルが不足しているかをリアルタイムで可視化し、クライアント企業へのコンサルティング材料として活用しています。

3. リクルートホールディングス:HR Techによる破壊的イノベーション

日本の誇るリクルートは、世界ランキングでは4位前後ですが、利益率と時価総額、そしてテクノロジーの文脈では実質的な「覇者」と言っても過言ではありません。Indeedの売上成長は、従来型の「人が介在する派遣」のモデルとは一線を画す、マッチングの自動化を推進しています。

2025年11月に発表されたリクルートの第2四半期決算では、連結売上高が約9,147億円(前年比2%増)と堅調に推移しています。特筆すべきは、Indeedを中心としたHRテクノロジー事業のEBITDA率の高さです。

リクルートの強みは、膨大な求職者の行動ログという「1次データ」を直接保有していることです。これをETLプロセスで正規化し、機械学習に流し込むスピードにおいて、伝統的な人材会社は太刀打ちできない状況にあります。Indeedは今や「求人検索エンジン」から、給与決済や面接設定までを統合する「プラットフォーム」へと進化を遂げています。

専門特化型のプレイヤーたちの存在感

売上規模ではトップ5に入らなくとも、特定の領域で圧倒的な利益率とブランド力を誇る企業があります。例えば、アメリカのRobert Half(ロバート・ハーフ)です。

彼らは財務・会計、法務といった高度な専門職に特化しており、景気後退局面でも強い耐性を持ちます。コンサルティング業界の人間から見ると、彼らの「プロフェッショナル派遣」は、戦略コンサルと実務支援の隙間を埋める非常に巧妙なビジネスモデルに見えます。こうしたニッチトップの企業ほど、実は社内のBI活用が進んでおり、コンサルタント一人ひとりの稼働率や成約単価をシビアにモニタリングしています。

データ活用が分ける「人材会社の明暗」

これらの巨人たちを見渡して共通して言えるのは、「人材ビジネスはもはや、情報の物流業である」ということです。かつてはベテラン担当者の「勘」でマッチングしていたものが、今では以下のようなデータパイプラインによって処理されています。

  • ETLによるデータ統合: 複数の求人媒体、SNS、社内DBから候補者情報を抽出し、統一フォーマットに変換。
  • BIによる市場予測: 過去の採用データから「このスペックの人は、この時期に、この年収なら動く」という確率論的な予測を立てる。
  • スキルのタグ付け: レジュメの自然言語処理により、本人が自覚していない潜在的なスキルを抽出する。

これらを実現している企業がランキングの上位を維持し、古いモデルに固執する中堅以下の会社は淘汰される。2026年は、この「技術格差」がより顕著になる年になるでしょう。

結びにかえて

世界ランキングの数字を追いかけてみると、単なる企業の大きさだけでなく、それぞれの国や地域の労働文化、そしてテクノロジーへの向き合い方が透けて見えます。リクルートがIndeedを買収した時の衝撃から数年、今や「データを持たざる者は、人材ビジネスから去れ」と言わんばかりの状況です。

私たち個人にとっても、これらの巨大プラットフォームのアルゴリズムにどう評価されるかを考えることは、キャリア形成において無視できない要素になってきました。次にレジュメを更新する時は、自分の経歴を単なる「文章」としてではなく、巨大なBIツールに読み込まれる「データ」として眺めてみると、新しい発見があるかもしれません。

※データ引用元:Staffing Industry Analysts (SIA) 2025 Global Report, 各社決算説明資料(2025年度)。為替レートは執筆時点のものを参照。

人事が読み解く「伊藤レポート」完全解説:人的資本経営の羅針盤を理解する





人事が読み解く「伊藤レポート」完全解説:人的資本経営の羅針盤を理解する

「伊藤レポート」は、特に人事の領域では、ここ数年で「人的資本経営」というキーワードと共に、まるでバイブルのように語られています。しかし、実際に中身をすべて読み込み、その背景にある「文脈の変化」までを把握できている人は意外と少ないのではないでしょうか。

伊藤レポートは、単なる「人事の改善案」ではありません。それは、投資家と企業の対話の在り方を変え、ひいては「日本企業の稼ぐ力」をどう取り戻すかという、極めて経営的な視点から書かれた戦略文書です。人事が経営のパートナー(HRBP)として機能するためには、このレポートが投げかけている問いに、自社の言葉で答えを出さなければなりません。

今回は、一連の伊藤レポートが何を伝えようとしているのか、そしてバージョンアップごとに何が強化されてきたのか。人事が押さえるべきポイントを徹底的に深掘りします。


1. 伊藤レポートとは何か? その全体像と「人」へのシフト

そもそも「伊藤レポート」とは、一橋大学の名誉教授である伊藤邦雄氏を座長とする経済産業省の検討会報告書の総称です。実は、金融・ガバナンス側からのレポートと、人事(人材戦略)側からのレポートの2つの大きな流れがあります。

始まりは「ROE 8%」の衝撃(2014年:伊藤レポート1.0)

2014年に発表された最初の伊藤レポートは、日本の人事界ではなく、主に経営層と投資家を震撼させました。そこで説かれたのは、「日本企業は資本効率を軽視しすぎている。持続的な成長のためにはROE(自己資本利益率)8%以上を目指すべきだ」という、極めてドラスティックな提言でした。

人事がなぜこれを知る必要があるのか。それは、このレポートが「企業価値の向上」の定義を確定させたからです。そして、続く「伊藤レポート2.0(2017年)」では、その価値を生み出す源泉として、有形資産(工場や設備)から「無形資産(技術、ブランド、そして人)」への注目が移り始めました。

人事が読むべき主役「人材戦略(伊藤レポート)」への派生

この「無形資産としての『人』が企業価値を左右する」という流れが決定定的になり、人事・人材戦略に特化してまとめられたのが、私たちが今日「人的資本経営の教科書」と呼んでいる以下のレポート群です。

  • 人材版伊藤レポート 1.0(2020年): 「人材戦略をどう経営戦略と結びつけるか」のフレームワークを提示。
  • 人材版伊藤レポート 2.0(2022年): 1.0の理論を「どう実践するか」という実行プロセスにフォーカス。

2. 人事が押さえるべき核心「3P5Fモデル」の徹底理解

人材版伊藤レポートにおいて、人事が最も暗記し、実務に落とし込まなければならないのが「3P5F(3つの視点、5つの共通要素)」というフレームワークです。これは、人材戦略を構築する際のチェックリストと言い換えても良いでしょう。

3つの視点(3 Perspectives)

人材戦略が「人事部の中だけ」で閉じることを防ぐための3つの軸です。

① 経営戦略との連動(Business-HR Alignment)
「経営戦略を実現するために、どのような人材が必要か」を論理的に語れるか。ここが全ての出発点です。

② As-is To-beギャップの定量把握
「現在の状態(As-is)」と「あるべき姿(To-be)」の差を、感覚ではなく数字で把握しているか。このギャップを埋めることが人事の仕事になります。

③ 企業文化への定着
どんなに優れた戦略も、文化に拒絶されれば機能しません。企業理念や行動指針が、社員の日々の行動にまで落ちているかを確認します。

5つの共通要素(5 Factors)

具体的にどのような取り組みに注力すべきか、日本企業に共通する課題として5つが挙げられています。

  1. 動的な人材ポートフォリオ: 未来の事業に必要な人材を、いつまでに、どこから(採用・配置・育成)確保するか。
  2. 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン: 単なる属性の多様性ではなく、「異能の掛け合わせ」によってイノベーションを生み出せているか。
  3. リスキル・学び直し: 環境変化に合わせて、社員のスキルをアップデートし続ける仕組みがあるか。
  4. 従業員エンゲージメント: 社員が自発的に貢献したいと思える環境か。主体性を引き出せているか。
  5. 時間や場所に捉われない働き方: 多様な人材を惹きつけるための柔軟な労働環境を整備できているか。

3. バージョンごとの違い:何が進化し、何が変わったのか?

「1.0」と「2.0」、そして2026年現在の視点から見て、提言のトーンや焦点がどう変わってきたかを整理します。

項目人材版 1.0 (2020)人材版 2.0 (2022)現在(2024-2026)の文脈
主なテーマ理論・フレームワークの提示実践・実行プロセスの具体化開示の質と「インパクト」の証明
キーワード人的資本経営の定義実行、可視化、対話AI活用、リスキルの実効性
人事に求める役割戦略の立案者変革の推進者(チェンジエージェント)データドリブンな価値創造者
投資家への視点開示の重要性の啓蒙開示を通じた企業価値の対話「稼ぐ力」への寄与の厳格な評価

変わったこと、変わらないこと

提言の本質的な目的(=人材を『資本』と捉え、投資して価値を最大化する)は、一貫して変わっていません。しかし、「言うは易く、行うは難し」という壁に多くの企業がぶつかった結果、2.0ではより具体的な「アクション」が求められるようになりました。

例えば、1.0では「リスキルが大事だ」と言うまでで止まっていましたが、2.0では「どのようなスキルが必要かを特定し、実際に学習した時間がどう事業成果(売上や利益)に繋がったかを可視化せよ」と、一歩踏み込んだ要求になっています。


4. 人事が「伊藤レポート」を実務に活かすための具体的アクション

レポートを読んだ後に、人事部として明日から何をすべきか。実務レベルでの「落とし所」を提案します。

① 「管理」から「価値創造」へのマインドセット転換

これまでの人事は、いかにコスト(給与や経費)を抑え、ミスなくオペレーションを回すかという「管理」に重きを置いてきました。しかしレポートが求めているのは、「投じた1億円の人件費を、いかにして1.5億円の価値に変えるか」という投資の視点です。人事企画の提案書に「コスト削減」だけでなく「リターン(収益貢献)」の予測を書くことから始めましょう。

② CHRO(人事最高責任者)と経営陣の対話の橋渡し

伊藤レポートはCHROの設置を強く推奨しています。人事はCHROに対し、単なる人員数や離職率の報告だけでなく、経営戦略のボトルネックになっている「スキル不足」や「組織風土の停滞」を、データ(BIツール等)を駆使して報告する必要があります。

③ 定量データ(人的資本KPI)の整備

伊藤レポート2.0では「可視化」が大きな柱です。ここで人事が準備すべきは、有価証券報告書に載せるための数字だけではありません。自社の経営戦略に紐づく独自のKPI(重要業績評価指標)を策定することです。

  • 例: デジタル変革(DX)が戦略なら、全社員に占めるITリテラシー認定者の割合と、DXプロジェクトによる削減時間。
  • 例: グローバル展開が戦略なら、海外経験を持つマネージャーの比率と、海外拠点のエンゲージメントスコア。

5. まとめ:伊藤レポートが私たちに問いかけていること

伊藤レポートを通読して感じるのは、「人事よ、経営のど真ん中に戻ってこい」という強烈なメッセージです。かつての人事は、単なる事務方や「調整役」に甘んじていた時期もありました。しかし、テクノロジーが進化し、ビジネスモデルが瞬時に模倣される現代において、最後に模倣できない差別化要因は「その組織で働く人の熱量とスキル」しかありません。

レポートで示された3P5Fは、決して「埋めなければならない宿題」ではありません。自社が、激動の市場で生き残り、輝き続けるための「戦略のキャンバス」です。

「うちの会社は古いから」「経営層の理解がないから」と諦める前に、レポートを武器にして対話を始めてみてください。人的資本経営へのシフトは、もはや「トレンド」ではなく、日本企業が生き残るための「唯一の生存戦略」なのですから。