人事のデジタル推進を「仕組み」で動かす。現場で使える5つのフレームワークとデータ活用の実践





人事DXを成功させる5つのフレームワークとデータ活用の勘所

「人事もデータドリブンに」という言葉を耳にする機会が増えましたよね。ですが、いざ進めようとすると、散らばったExcelデータ、使いにくいシステム、そして何より現場の抵抗感……。課題は山積みではないでしょうか。

単に新しいツールを入れるだけでは、本当の意味でのデジタル推進(DX)は果たせません。大切なのは、「何を解決したいのか」を整理し、データをどう流すかという設計図を描くことです。

今回は、人事のデジタル変革を支える5つのフレームワークを、BI(ビジネスインテリジェンス)やETL(データの抽出・加工・取り込み)といったITの視点も交えながら、少し詳しく深掘りしてみたいと思います。


1. ECRS(イクルス):業務の「断捨離」と自動化へのステップ

デジタル化の第一歩は、今の業務を整理することです。改善の定石であるECRSは、人事の煩雑な事務作業を整理するのに非常に役立ちます。

  • Eliminate(排除): なくせないか?
    • 例:慣習で続けている紙の捺印フロー、参照されていない月次報告書。
  • Combine(結合): まとめられないか?
    • 例:採用管理と入社手続きで別々に入力している個人情報。
  • Rearrange(順序の入れ替え): 順番を変えたらスムーズか?
    • 例:承認の後にデータを入力するのではなく、入力時に自動でチェックをかける。
  • Simplify(簡素化): もっと楽にできないか?
    • ここでETLツールの出番です。

【実用例:給与計算のためのデータ集計】
勤怠データ、残業申請、住宅手当の変更届……。これらを毎月手作業でExcelにコピペしていませんか?
ETLツール(AlteryxやTableau Prep、あるいはもっとシンプルな自動化ツール)を使って、各システムからデータを抽出・結合・加工する工程を自動化すれば、人間は「エラーのチェック」だけに集中できるようになります。


2. ADKAR(アドカー):システム導入を「拒絶」させないために

どれほど優れたBIツール(データの見える化ツール)を導入しても、現場のマネージャーが使ってくれなければ意味がありません。人の意識変化を促すADKARモデルで、導入プロセスを設計しましょう。 [Image of ADKAR model for change management]

  1. Awareness(認識): 「今の管理方法では離職の予兆に気づけない」という危機感を共有する。
  2. Desire(欲求): 「BIツールを使えば、チームの状態が一目でわかり、面談の準備が楽になる」というメリットを感じてもらう。
  3. Knowledge(知識): ツールの操作方法だけでなく、「データの見方」を教える。
  4. Ability(能力): 実際に自分のチームのデータを見て、アクションプランを立てられるように伴走する。
  5. Reinforcement(定着): ツールを使って成果を出した事例を社内で表彰するなど、活用を習慣化させる。

3. マッキンゼーの7S:デジタルを組織の「体質」にする

デジタル推進を単なる「システムの入れ替え」に終わらせないためのフレームワークです。ハードのS(戦略・組織・システム)だけでなく、ソフトのS(スキル・人材・スタイル・価値観)をどう変えるかが鍵となります。 [Image of McKinsey 7S model diagram]

【実用例:BIツール導入の失敗を防ぐ】
System(システム)としてTableauやPower BIを導入しても、それを使う側のSkill(スキル)、つまりデータリテラシーが不足していれば宝の持ち腐れです。また、これまでの「勘と経験」を重視する経営者のStyle(スタイル)が変わらなければ、現場は結局、数字に基づいた提案を諦めてしまいます。


4. SWOT分析:自社の人事データの「健康診断」

戦略を立てる前に、自社のデジタル化の現在地を客観的に把握しましょう。特に「データ」という資産に注目して分析してみるのがおすすめです。

  • Strength(強み): 過去10年分の採用データがクリーンに蓄積されている。
  • Weakness(弱み): 評価データがPDFで保管されており、分析に回せない(構造化されていない)。
  • Opportunity(機会): リモートワーク下でエンゲージメントサーベイの重要性が高まっている。
  • Threat(脅威): 同業他社がAIを使ったマッチングで採用効率を大幅に上げている。

ここで「弱み」として挙がった「バラバラなデータ」を統合するために必要になるのが、ETLの概念です。バラバラなデータを一つの「データウェアハウス(DWH)」に集めることが、DXの基盤となります。


5. STP分析:従業員一人ひとりに最適な施策を届ける

マーケティングの定番手法ですが、人事における「従業員体験(EX)」の設計にも非常に有効です。全員に一律の施策を当てる時代は終わり、ターゲットを絞ったアプローチが求められています。

  • Segmentation(細分化): 「若手・中堅・管理職」といった階層だけでなく、「育児中」「エンジニア職」「地方勤務」など、データの属性で分ける。
  • Targeting(絞り込み): 特に離職率が高い層や、次世代リーダー候補にリソースを集中させる。
  • Positioning(価値の定義): その層にとって、自社で働くことがどんな価値(成長、安心、自由など)を持つのかを明確にする。

【実用例:BIを活用したリテンション(離職防止)】
BIツールで残業時間や有給消化率、エンゲージメントスコアを掛け合わせます。「特定の部署の、入社3年目、かつ残業が急増している社員」というセグメントを抽出し、アラートを出す仕組みを作れば、ピンポイントでフォローアップが可能になります。


まとめ:フレームワークは「迷子」にならないための地図

人事のデジタル推進は、ゴールが見えにくく、時に孤独な作業になりがちです。ですが、ECRSで無駄を削り、ETLでデータを整え、BIで価値を見える化していく過程は、確実に組織を強くします。